記念講演:21世紀”いま”

岸 ユキ氏 (女優・兵庫県ひょうご森の倶楽部名誉会長)

■農業を始めたのは父親の影響

zenkoku02 「私は絵かきの娘なんです。私の父は日本画家で、もう亡くなりましたけれども、大きな絵をかいておりました。それで、父が亡くなる前に、私が「山梨で農業 をやるのよ」という話をしたら、「何でお前が農業やるんや、何でお前が」と何回も言いました。不思議だったんでしょうね。
でも、よく考えると、父の影響なんです。父はアトリエのちょっと出たベランダのところで花を育てていたんですけれど、夏にはダリア、冬にはスイセン、見事な花を咲かせました。今から思うと、本格的に素晴らしい花を咲かせました。」
と、お父さんとの思い出を語り、そして、NHKの『明るい農村』などの番組から農業と出会った経緯を通して、お話されました。

■農業のすばらしさを伝えたい
 「私は都会生まれの都会育ちで、農業なんて全く知らなかった。それでテレビの番組に出会って、初めて知ったんですね。そして日本の農山村300カ所以上歩いて、わあ、日本の国って美しい国なんだなあ、山が多い国だけれど、平均すればおよそ70%が山です。そして、猫の額ほどの土地を耕して、一生懸命お米や野菜をつくって、そして海があるわけですね。山に降った雨や雪がゆっくりと地に浸透して、そして山の幸や里の幸や、最終的には海の幸を私たちに与えてくれている。」
「私は、その農業のすばらしさというのをぜひ1人でも多くの人に伝えたいな、そう思って、山梨県の韮崎市に拠点を持ったんです。南アルプス、八ヶ岳、茅ヶ岳、富士山、周りはすばらしい景色です。
1反1畝、330坪ほどなんですけど、畑はおよそ200坪ほどあります。でも200坪を夫と2人で耕すのは大変です。その200坪の中には、11本の梅の木もあります。」

■自然とのコミュニケーション
 「農業は、いろいろなことを教えてくれます。まず自然とコミュニケーションをとらなければ、農業なんてできません。種のまきどき、収穫どき、いろいろあるんです。私たちはとにかく東京にいて、行きたくても行けないということがあったりして、ちょっとずれたりすることがあるんですけど、そうするともう芽が出なかったり、収穫どきを外すと、ちょっと育ち過ぎちゃったり。
夏野菜なんかはもうしょっちゅうです。オクラとかキュウリとか1週間置いちゃったら、もう腕ほど太くなりますよ。
自然とのコミュニケーションは、なかなかとれないけれど、18年やっていますが、毎年毎年違います。今年は、たった3本しか植えないカボチャの苗だったんですけど、65個カボチャができたんです。」

■人とのコミュニケーション
 あと、もう1つ、農業には人とのコミュニケーション。1人では何もできない。ほんとうそうです。いろいろお隣との共存とか、やっぱり一生懸命やっていないと、みんな仲間に入れてくれません。
私たちをその土地に一生懸命導いてくれて、いろいろ世話をしてくれている人なんですけど、ある時、うちへ来たんですよ。汗びっしょりかいて。「岸さんね、農業っちゅうもんはね、ラッキョのような汗をかいてやらないと本物じゃないんだよ」と、汚いタオルで顔をふきながらそう言うわけですね。ぎらっとした目をしてね。
結局、都会から来た者に何ができるという気持ちもあるわけです。それはそうですよね。「ラッキョのような汗をかかないと」。私はそのとき思いました、それから私は大粒の汗をかいております。
そして、今年もそうでしたけれども、毎年、お盆は草刈りで明け暮れます。連休もそうです。連休は夏野菜の苗を植えるんですけどね。それからは草との闘い。実は、私たちは全部手でやろうと。だから耕すのは全部、三つまたの鍬でやっているんです。自分たちの人間力を試そうと。
夏、太陽の光を浴びたトマトやキュウリやオクラやシシトウ、ピーマン、インゲン、そういうものをいただくと、心の底から心底、心身ともに元気になります。それで夏を乗り切るんですね。もう生き生きですよ。」

■ほんとうに豊かな世の中に
 「先ほど日本はすばらしいと言いました。四季がある、季節がある、このことをもう一度思い直したほうがいいんじゃないかな。この季節、旬のもの、それをやはり家庭レベルでほんの少しでも家庭の中に四季の風を入れていくという、このことがとても大切だなと思うんです。
その四季の風を家庭の中で感じる、そのことがどれほど生き生きと暮らすことにつながっているかという、そのことを感じるんですよね。
緑と花と、そんな中でみんなが幸せになろう、健康になろう、まさにそうですよ。四季を感じて、ほんとうに健康になれます。
そのことが21世紀、もう20世紀じゃないんです。物やお金、お金はちょっとは欲しいけど、でも、やはりほんとうに豊かな世の中にしていかなくちゃいけない。それは1人1人のそういう心がけ、家庭の中に四季の風を入れる、私はそのことが大切だと思うんですね。

ページの先頭へ戻る