基礎講演:園芸福祉から環境福祉へ

進士五十八氏 (NPO法人日本園芸福祉普及協会会長、東京農業大学教授・前学長)

■都市化の問題は人工化と画一化
zenkoku09_b_clip_image002 「この100年間で地球上の人口は4倍に増えたが、実はエネルギー消費を大量に使うようになって、今の環境問題が起きた。だから都市問題に対処しなきゃいけないわけですが、都市化の問題は2つあると思っています。
都市が過密になって、人工化する。人が増えれば当然、コンクリートアスファルトジャングルにせざるを得ない部分があるんですね。
それからもう一つは、建物その他が非常に画一化しました。鉄、アルミニウム、ガラスでつくるという時代になりました。機械でつくるものですから、全部、全国、いや、全世界が同じになってきてしまいました。
人工化と画一化ですね。だから自然が喪失し、人間性も失われてきたというわけであります。そこで、江戸川区だけではありませんが、大都市、環境共生都市でなきゃいけないというのが私の考えです。
共生は「ともに生きる」というんですね。仏教では「ぐしょう」とか「ともいき」といいます。「ともいき」というと多分おわかりの方が多いと思うんですね。いろんな異なった集団がお互いに助け合って生きるという、これが「ともいき」の思想です。」

■環境共生には3つの共生が必要
「私は3つの共生と言っていますが、それを整理すると、生き物との共生、江戸川区のように水がたくさんあり、水があったら緑が豊かになりますね。水と緑があれば生き物が出てきます。実は人間も生き物ですから、その手前に昆虫や鳥やさまざまな生き物がいる。生き物のいる雰囲気というのが大事なわけですよね。
環境共生には、もう一つ、資源やエネルギーがあります。この資源やエネルギーについては、もう今盛んに言われているCO2の問題が最大の問題ですね。
それから最後、地域共生という考え方を私は言っています。都市と農村、今までは、都市に住む、特に東京に住んでいる人たちは、農村というのは、ほとんど目の中に入っていなかったんですよね、みんな一極集中であり、自分のところしか見なかったんですね。
地域共生という考え方は、江戸川区の中でも地域共生なんです。つまり小岩あたりと篠﨑と、それぞれ違う場所、場所同士がお互い個性を競い合って、それで多色刷りの江戸川ができるわけですね。
みんな一色にしちゃしょうがないんですね。それは東京でもそうだし、日本全体でもそうなんです。多様性というのは生物だけの多様性じゃなくて、町の多様性が私は大事だと思っています。多様であると、助け合って生きていけるんですよね。」

■アメニティーは愛のある環境
「環境の問題からいうと、私はいつも申し上げているんですが、都市というのは、体中を水と緑の血管が通っていなきゃいけない。手の先、指の先まで体の隅々まで緑と水の血管が通っていて初めて健康なんですね。
建築の人は省エネを頑張る、土木の人は水がしみ込むような舗装や循環をちゃんとする、水循環をやる、河川なんかもそうですね、水循環。それから造園の人は緑化をちゃんとする、この3つさえしっかりやれば、いろんな効果があって、街全体がすごくよくなる、健康になると思っているわけです。」
「私のアメニティー論というのは、アメニティーというのは英語ですけれども、もともとはラテン語の「アモニタス」で、さらにさかのぼると「アモーレ」という、「ラブ」ですね、愛するという意味になるんですね。だから愛のある環境なんです。
愛のある環境というのは、安全で便利であること、美しい街であることですね。それから、今の生き物が生きられる街。あと2つ、地域らしさというのが大事だと思っているんですね。最後は、原風景といいます、懐かしい風景。ふるさとを感じるということですね。この5つ全部満たしたときに、ほんとうの環境になるんですね。」
「緑は大事だという意味ですが、これは生き生きして、命を感じるということですね。特に子供の教育には大事ですね。種から芽が出ることを実感として自分で感じさせるということですね。
公園ぐらいになると、情緒性、春、夏、秋、冬、季節感を感じる。だから並木は常緑樹ばっかりじゃいけないんですよ。街路樹は落葉樹がいいんですよ。冬になると葉を落とすからいいんです。その手前で黄色くなって赤くなるというのも大事なんですね。これが情緒ですよね。
最後、安定性。緑があると、どっしりと安定しているんです。都市を取り巻く土地を安定させているんですね。いわば父親のような役割であります。緑は、父親のような役割も、情緒性のような母親の役割も、子供たちのような命を感じさせる役割も持っているわけです。」

■グリーンエコライフに期待
「農業は、英語ではアグリカルチャー、園芸はホーティカルチャー、水産はアクアカルチャーと言います。全部「カルチャー」なんですね。「カルチャー」というのは文化で、文化は土地によって違うということなんですね。世界中同じになるのが文明で、それぞれが個性を持っているのが文化なんです。
この日本の文化である花文化や園芸の文化を大事にすること、あるいは農というのはそういう人間がかかわりながらつくられた自然だから、野生の自然と全然違うんです。人間化した自然ですから、ほんとうに親しみやすい、人のいわば感情移入できる自然なんですね。
そういうふうに考えると、これはグリーンエコライフをみんなでつくってほしい。これが実は国土を救うし、日本を救うし、子供たちを大きく育てます。だから、皆さんがやっているのは、一応趣味で楽しくてやっているんですよ。それでいいんです、入り口は。しかし将来はそれがもっと大きな意味を持っている、そういう活動に広げてほしい。
私は、園芸福祉というのは、医食同源でもあるし、子育て、教育問題と環境問題とか、いろんな無縁だったと思うものがみんなつながってくると思っています。これが、今日、言っている環境福祉であります。
園芸福祉も、私は立派なアートだと思っているんです。人と人のコミュニケーションも、そしてそれぞれが自分の想像力を発揮して、先ほどのお話にもありましたが、いろんなものをつくってはチャレンジしていくわけですね。そのプロセスそのものは、まさにアートじゃないですか。
最後に、園芸福祉の思想の種をまくんですね。思想の種をまき、行動を刈り入れなさい。行動の種をまき、習慣を刈り入れなさい。習慣の種をまき、人格を刈り入れなさい。人格の種をまき、運命を刈り入れなさい。我々は既に園芸とか福祉という種をもう十分にまいて、行動も始まっております。
江戸川区の花のまちづくりコンクールでずっとあちこち現場を見せていただきました。ほんとうにたくさんの方がボランティアで頑張っておられます。
既に行動は習慣になっております。だから好かれる人柄、人格ができるんですね。そういう人間ができたら、間違いなくいい運命が、みんなに愛される、好かれて、仲間もたくさんいて、寂しくない、そういう運命をきっちり刈り入れているはずなんですね。そう思っております。」

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